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昼の間は人も車も多数 出入りするので、場末とはいえない場所だが、
それでも陽が落ちればすっかりと人気のなくなる、
港湾区域内の見本市会場の一角にて。
それはさりげない風を装ってか、それとも裏社会を舐め切っていての不用心からか、
簡素な施錠に、見張りはなしという格好での強制監禁をしていた拉致犯の賊一味がおり。
年少ながらも荒事を捌く探偵社員、
しかも外つ国から襲い来る巨悪に立ち向かいさえするような勇者だというに、
そんな敦が囚われの身だったのは、
人間までもを商品扱いしてのオークションとやらが催されるらしいとの情報を得た
どこかしらの内務省部署から依頼された案件だったから。
密告を裏付ける証拠集めにと潜入捜査に投入されていたのだが、
十代の子らが失踪しまくり、
今時に“神隠し”なんていう都市伝説が持ち上がりかけていた某サークルのパーティーに
アルバイトのウェイターとして潜り込み、
店の人やら参加している面子やらとも少しずつ顔馴染みになっていたところで、
当該の拉致犯たちにうっかりと身バレしたかららしく。
『異能者だってことはバレてなかったんですが、
こっそり通信機で報告していたところを見られたようで。』
周辺への用心とかちゃんと敷いていたし、
虎の感知で気配へも鋭くなってたはずだったんですけどねと。
その身を拘束されていた被害者だというのに、
力量不足だったのが情けないですと言いたげに、へにゃりと苦笑する虎の子くんで。
成程 超回復という異能が鈍かったのは意識して抑え込んでいたからかと、
殴られたのだろう痣が残っていたのへの納得はいったものの。
日頃も偉そうにふんぞり返っている子じゃあないが、
猫背に拍車がかかっているのを見て、
「……。」
帽子の兄人が複雑そうに眉をしかめかかっている。
これが他の人物の言いようならば、自分には関係ねぇとただ好きにしろと受け流すところ。
相手が相手なだけに “それじゃあいかんだろう”と思いはしたが、
こんな場で叱るというのも立場がなかろと、
軽く息を詰めて今は聞き流す中也であり。
そんな刹那の表情の変化に気付いたか、側近の青年がこちらもまた苦笑混じりに受け流す。
首領に傾倒してのこと、ややこしい生まれとは思えないほどの誠実に、
組織と惣領とへ忠誠傾けている模範的な幹部殿。
冷酷無比だと装いながらもなかなか情に厚い人物で、
ウチとのかかわりや敦を助け出した事実をもみ消すべく…なんて建前を掲げながら、
監禁されていた他の少年少女らをも部下らに指示して収容してやっており。
「人身売買をかっこつけてオークションなんて段取り組むから
俺らのアンテナに引っ掛かったんだ。」
マイクロバスへ収容されてゆく少年少女らをちらと見やった中也が
吐き出すように付け足したのが、
「こっそり取引してたんなら気付きも遅かったろうが、
lineで宣伝うってやがった。」
「ありゃ。」
まんまと囚われの身となっていただけに、自分は馬鹿に出来る立場じゃあないかなと思うのか、
やや遠慮気味な声を出す敦と違い、中也の方は斟酌もない。
「非合法をどうのこうのは言えねぇが、まったく馬鹿な連中がいたもんだ。」
あっちこっちぼろぼろと迂闊で穴だらけな手口が他人ながら呆れるばかりな連中で、
どうかせずとも素人に毛の生えたような輩の仕業。
そんな程度でこんな大事に手ぇ出すなという方向でもむかっ腹が立つその上に、
例えば夜遊びしているところを攫ったとか、
例えば巧妙に儲け口があるとかどうとか言って罠にはめたとか。
見目のいい子らが無理から力づくで拉致されるなんて事案はこの街に限った話じゃあないが、
それでも“意志ある人の子”を勝手強引に商品にしてんじゃねぇよと、
そこは惣領殿の思惟とは別クチの自身の意思からも不快に思う彼らしく。
客層が腐った富裕層だってのもむかつくと、
我が身へ降った奇禍のように憤怒していたものの、
「人虎。」
建物の周辺で、部下を率いて相手側の雑魚どもを黒獣で搦めとっては一網打尽にしていた
ポートマフィアの禍狗こと芥川が、
気配を察してか 棟から出て来た此方を振り返って来たのへは、
小さく苦笑をしてみせる。
「異能力を気付かれまいとしたか、治り損ねな痣をいくつか抱えていたが、
何とか無事だぞ。」
それぞれの所属の関係やら、各々の実力を認め合っているがため、
日頃は噛みつき合う敵対者だが、
非番は打って変わって兄弟のように仲のいい彼らだと知っておればこそで、
案じなくてもいいぞと言ってやりつつ にんまり笑う余裕も出ている帽子の幹部殿。
ほれ、兄人にも叱ってもらえと背中を押され、
マフィア側の黒服さんたちが、
賊の一味を本拠の拷問班に任せるべく、被害者らとは別口の移送車に押し込んでいた傍らで、
さりげなく待ち受けてた漆黒の覇者様からはからで、
判りやすく叱られはしなかったものの
頬に残っていた痣をとがめるように指で撫でられた虎くん。
案じられ、いたわられたのが堪えたか、
ついつい “心配かけてごめん”と頭を下げて謝っているところが ややこしい。
煌々と月の照らす此処は、都会にしては空が開けた不思議な空間で、
ちょっぴり微妙な顔ぶれが、
やれ終わった終わったと意気投合して苦笑を交わしていたのだった。
to be continued.(19.10.29.〜)
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*四歳の年の差というのは、この世代には頼もしい大人というふうにもなるのでしょうが、
歳がいくと“そんなもん四捨五入したら一緒だ”扱いです。
(年功序列が厳しい職場は別ですが。)
小学生とか何カ月単位で年上だと威張るじゃないですか、
あれを想えば何となく微笑ましいですが、
この人たちの場合は場合で、生活次元が違うしねぇ。(う〜ん)

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